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【退職エントリ】郵便局の仕事を通して思うこと

かねてから勤めてきた郵便局を先日退職しました。僕の仕事は自動二輪車を使用した郵便配達。期間雇用社員の外務員としてバイクでの郵便配達を担当していました。「郵便屋さん」と言えばこのイメージの方も多いでしょう。

 

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自身の振り返りも兼ねて、退職エントリとしてまとめてみます。 

 

 

郵便局仕様のカブに乗って担当区の各家庭、学校や会社へ以下の郵便物を配達するのが主な業務です。

 

・定形郵便(一般的な封書・はがき)
・定形外郵便(大きい封筒や広告。年末はカレンダーが多くて厄介)
・追跡サービス対象の郵便(フリマアプリの台頭で負担増の傾向)
・速達(本来の配達コースを大きく外れることもある。実は優先度合いが曖昧)
・書留(1日20~40通くらいの量。クレカ関係が多い)
ゆうパック(4輪が配達できない分を巻き取る。対面渡しだから多いと困る) 

 

郵便局に従事する人口はかなり多いので、ネットを通して同じ業務を担当している人にはわりと容易く触れることができます。Twitterには「自分が郵便配達をしている」と明示した上で労働環境問題を外部へ発信しているアカウントもあったりする。

 

辞める前には自身の状況とそれらを照らし合わせて「どこの局でも同じような悩みを抱えてる人がいるんだなぁ……」と思ったものです。

 

郵便配達の仕事は地域性が強いため、人によって異なる問題を抱えている場合が多い。その一方で広く共通している問題もまた多いと感じました。

 

郵便配達の仕事は全国的に人手が足りていない状況、積極的に募集活動を行っています。「郵便配達の仕事ってどうなの?」って気になった人もいると思うので、ここ最近の郵便事情を含めた僕の体験が参考になればと考えています。

 

予め、主観による部分も大きい内容であることはお伝えしておきます。繰り返しになりますが、郵便配達の仕事は地域性が強い仕事です。ひと口に「郵便配達」と言っても局や班によって環境が異なりますので、その点は留意して下さい。

 

郵便配達を辞めた6つの理由

 

  1. 配達担当区がとにかく"重い"


    まず、新入りの郵便配達員は人が抜けやすいキツい区に配属される傾向ありです。郵便局の想定として、配達員は8時から始業。1時間の昼休憩を取りながら配達を完了し、16時くらいに帰局。事故処理(転送シール貼ったり、差出人へ還付したりする作業)を行って定時の16時45分に退社することが標準とされてます。

    当然、こんな時間に終わるわけがありません。配達だけで6時間以上かかる区を僕は担当することになりました。大雨の日は悲惨。

    冬になると日が短くなるので、16時過ぎくらいから空が暗くなり始めます。暗くなると配達効率が落ちるため、なんとか早く終わらせようとすると昼休憩を削り始めることになります。配達中も駆け足が基本。

    でも、これだけやっても配達が早く終わる区には追いつけないんだ。慣れれば僕も定時で上がれるようになるかと思ったけど、無理。慣れれば慣れるほど、どれだけ工夫しても物理的に不可能なことが分かってくる。半年ほど過ぎた頃には周りを観察することもできて、郵便配達には負担の"重い区"と"軽い区"があることを実感として理解できるようになります。

    僕だけが特別遅いのであれば改善していきますけど、経験の長い社員でも同じくらいの時間はかかってるわけです。こうなると個人じゃなくて区割りの問題なんですけど、既に負担が均等化にされているという風潮なので改善されません。固定で区を担当する僕からすると絶望的な認識のズレ。

    人員配置次第では一部を他の人がやってくれる日もありましたが、基本的には自力でやりきるのが前提。

    重くも軽くもない区。便宜上、"平区"とでも言いましょう。これに合わせて残業時間を同じラインで求められるのだから正直アホらしくなってきます。

  2. DOSS(集配業務支援システム)の不合理


    配達員はDOSS(ディーオス)と呼ばれる集配業務支援システムのもとで業務を行います。トヨタ式の作業効率化を参考にして考案されたシステムと聞きますが、実態は作業効率を逆に悪くしているように思えました。

    各作業に対する所要時間はデータ化して管理されています。そのため、朝の準備体操、大区分、道順組立、書留授受、バイク点検、ミーティング、出発準備、出発といった作業の節目節目に携帯端末を操作して現在行っている作業項目を手動で切り替える必要があるのです。

    実際、配達員の立場からすると出発前の作業なんてものは一連の動き、ひと繋がりのルーティンワークなんですよ。それをいちいち分割して作業の手が止まるんだからかえって非効率になります。

    また、配達の所要時間は郵便物の物量や推定配達件数によって概算が割り出されるわけですが、例えば1通のはがきを届けるにしてもアパートの集合ポストに入れるのと、2階のドアポストに入れるのとでは所要時間が変わります。バイクから降りずに郵便受けへ入れられる家と、降りて郵便受けまで向かう必要がある家もまた同様。再配達、書留やゆうパックの量によっても所要時間は大きく変わります。

    最近はメルカリを始めとするフリマアプリの利用者も増えているので、受け箱に入らない郵便物も増えています。この場合は対面で渡すけど、居住者がいなければ不在通知書を手書きで作成するためさらに時間がかかります。

    同じ1通でも状況により重みが変わってくるわけですけど、ここは全く考慮されていないようです。「業務支援システム」として成り立っているのでしょうか。

  3. 残業時間の締めつけがキツい


    DOSSも当初はあったであろう正しい運用方法を守っていれば人員配置の最適化や配達負担の均等化に役立ったと思いますが、現状からそれが実現することは望めないと感じました。

    郵便事業は収支が厳しい状況にあるため、人件費削減は至上命令になっています。コストダウンの一環として配達員の残業(実際は公務員時代の名残で「超勤」と言うことが多い)は厳しく制限されています。このため「ムダな動きをなくせ」「配達を早く終わらせるように」といったことを全体ミーティングの際によく言われる。終業時間を決めつけられる中で郵便物を配りきるため、昼休憩を慢性的に削っている配達員はかなり多いです。僕もこうなってしまった。

    こういった現状をありのままDOSSに入力して管理職が業務量を適切にコントロールしてくれれば良いのだけれど、実際は「1時間の休憩をDOSSに入力していない」と注意するだけで「本来の休憩時間を確保できない原因」を解決しようする動きにはなりません。

    結果として配達中にも関わらず形だけの休憩時間を入力している配達員が多く生まれる。当初はありのままに入力してたけど注意されるだけ時間のムダなので、いつからか僕も平気な顔して昼休憩は嘘入力するようになりました。

    これをやるとデータ上はうまく仕事が回っていることになるので、補充の人員なんか来るはずがありません。結局は自分達の首を進んで絞めてる最悪の構図になるんですよね……

    配達中の誤配は許されず、帰局後も配達証の返納や現金の返還、事故処理、転居処理などの事務的な作業もやらなくてはいけない。特に書留の扱いは厳重で配達証や不在持ち戻りの数が1通でも合わないと局全体を巻き込む大きな問題になります。

    肉体的に疲れている中で急かされてしまうので、一息つく時間もとれない。毎日これだから張りつめた精神が疲弊していくのも仕方ないです。自然と人間関係のストレスも嵩んでいきます。

     

    www.nishinippon.co.jp

     

  4. 年賀営業に対する疑問


    11月から年賀状販売の営業が本格的になります。僕も担当区の配達中に声掛けを行っていき、実際に販売業務にも携わりました。

    ところで、郵便局といえば年賀状の自爆営業が悲しいことに以前から有名。下記は2013年の記事。

    biz-journal.jp


    そして、こちらは2020年のニュース映像。

    www.youtube.com


    局によって空気感が違うだろうけど、ここからは実際に現場にいた者としての話をしようと思う。

    2019年にかんぽ生命の不適切営業のニュースが連日報道されたこともあって、「ノルマ」という言葉はない。ただ「目標」は存在する。局ごとに目標枚数が割り当てられていて、それが各班へ割り当てられ、さらに各区に割り当てられるといった具合。自分だけ販売実績ゼロというのは居心地が悪いから僕もシーズン中は声掛けやチラシの投函を行いました。

    年賀シーズンになると局内の至るところに販促掲示物が貼り出されます(文化祭かと思うレベル)。各区の販売件数は日々更新されて、目立つ場所に掲示されます。優秀な班や区に「いいね!」がつく一方で、実績の低い班や区にはマーカーで色がつけられたり、茶化したようなコメントがつきます。

    結局、言葉が置き換わっただけなのかなと感じました。かつて非正規社員にまで及んでいた個人成績に基づく叱責は鳴りを潜めたようですが、遠回しにプレッシャーはかけてきてるのだなぁという雰囲気。

    ただ、年賀状って言うなれば郵便局の独占商品なわけで、なおかつどこで買っても利用者としては同じもの。これを残業コストをかけてまで配達員が必死に営業する必要って本当にあるのかなとずっと思ってました。

    「配達員から年賀はがきを買う」という発想の人なんてほぼいないですよ。

    利用者からしてみれば買い物ついでにコンビニかスーパーで買った方が楽なはずです。配達員から受け取るか、郵便受けに入っていた申込み用紙に購入枚数と名前と受け取り希望日を記入してポストへ投函。希望日に訪問してきた配達員と対面して会計(現金のみ)なんて、手間が多くて面倒でしょう。

    配達員からしても配達中に販売業務があると負担なんですよ。釣り銭の準備と返還の手間が増えたり、書類を提出したりする必要も出てくるのでどうしても十数分のロスが生じる感覚です。

    郵便局の窓口以外にもコンビニやスーパーといった販路が確立しているのだから、配達員の年賀営業は省略して本来の配達業務に専念させれば良いと思います。

    11月以降はゆうパックの配達も増える傾向があります。平常より時間がかかる中でも残業時間は締めつけられるので、余裕を持てない中では誤配も生じやすいです。でも、誤配先に郵便局の内情は関係ないですよね。「疲れて集中力が途切れた」とか「休憩とれないほど忙しくて確認が疎かになった」とか言えないですよ。

    年賀営業が本当に郵便局の掲げる「お客様本位」に繋がるのか疑問です。

  5. 正社員と非正規社員の格差


    勤務表を見れば一目瞭然ですが、正社員と非正規社員で決定的な違いがあります。ずばり、休みの日数。郵便局の仕事については過酷な面が多い一方でホワイトな面もあります。それは休日が多くあるという点です。週休3日体制や大型連休を作りやすいというのはよく見かける話です。

    これ、発言者が正社員か非正規社員かをちゃんと見た方が良いです。郵便局は労働日数としては正社員より非正規社員の方が格段に多いです。人手不足の班では有給(現場では「年休」と呼ぶことが多い)も取りにくいですよ。面構えもキマってきます。

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    正社員に比べて期間雇用社員の待遇は劣悪。仕事内容は同じなのに休みは正社員の半分以下。


    ただ、正社員は正社員でこんな問題を抱えている様子。非正規の手取りより少なくなることは条件によって実際あり得る話です。長年の経験を持つ正社員でも残業代がなければ手取り20万円に届かない世界。

    www.businessinsider.jp

     

  6. 今後の事業継続に不安を覚える


    これまで上げた問題点、実は以前から指摘されていることなんですよね。それこそ10年以上前から言われていたことです。今でもこの問題を引きずっているんだから、もはや根本的な解決ができない社内風土になってしまっているのではないでしょうか。

    2019年最大のバッドニュースであるかんぽ生命の不適切営業の他、毎週のように郵便物の放棄・隠匿、横領が発覚して郵便局のイメージは悪くなる一方(募集しても応募者がいないという話もあるほど)。このしわ寄せは必ず末端の配達員へ波及します。

     

    president.jp

     

    www.asahi.com

     

    まぁね、郵便物の放棄・隠匿はやった本人が悪くて、自身で責任を負わなければならないのは確か。でも、それを引き起こしてしまう環境があることも同時に考えてほしいと思う。それを正すのは管理者の責任だし、会社全体が取り組まなければならない課題なんだよ。

    郵便局はユニバーサルサービスの担い手なので会社として完全に潰れるということはないと思います。ただ、人手不足でより過酷になる労働環境に"中の人"が擦り切れずにいられるかとなると不安を覚えます。

    僕も今後この仕事を体を壊さずに何十年も続けていける未来図は描けませんでした。仕事の性質上、交通事故の危険性も高いですしね。最近だと新型コロナウイルスの感染リスクも高いと言えます。

    www.sankei.com


    上の人からは「郵便局辞めるのはもったいない」とか「このままやっていけば正社員になれる」とか言われもしましたが、休憩をとる時間すらない配達員の現実を見てくれと思います。希望と魅力なんて感じませんよ。

    togetter.com

     

まとめ


郵便配達の仕事をしていて良いこともありました。基本的に配達中は愛想よく、丁寧に対応していれば悪い思いはしません。配達先では受取人に「お疲れさま」や「ありがとう」などの労い言葉を頂くことが多かったので、こういった言葉は励みになりました。

 

通勤も徒歩圏内だったので、満員電車や遅延情報に振り回されることが皆無でした。これはすごく楽でしたね。残業が慢性的に発生してしまう区の担当にはありましたが、日付が変わる寸前まで仕事をするみたいなことには決してなりません。

 

給与面については正社員との格差はあるものの、非正規社員としてはスタート時から地域の中では高い水準となる場合が多いです。夏と冬にはちょっとした臨時収入もあったりする。経験を重ねて担当範囲が広がれば基本給も上がっていくので、習熟度が最高ランクになれば地方ではそれなりの収入を得られる仕事にもなると思います。

 

社会保険や初期段階の研修は手厚いです。その他福利厚生も近年は改善傾向にあるため、なんやかんやで一定数の需要があるのは分かります。非正規にも臨時収入がある仕事ってなかなか無いじゃないですかね。

 

年賀営業に関してはブーブー言いましたけど、実際に配っていると年賀状が届くのを楽しみにしている人は多くいるんだなと感じました。無事全て届けられた時にはいつも以上に肩の荷が降りた快感を覚えます。

  

最後に、自分が利用者側として再配達をお願いした時には必ず希望時間帯に在宅することを肝に命じるようになりましたね。再配達の時に不在なの、ガチのガチで有罪(ギルティー)です。

 

「仕事で配達して、家でも配達なんかしたくぬぇ~!!」という思いから話題作の配達ゲー『DEATH STRANDING』を気になりつつも避けていましたが、やっと買う気になれました。

 

【PS4】DEATH STRANDING

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  • 発売日: 2019/11/08
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